[SK031:相続]配偶者への自宅の贈与・遺贈が変わります(用語の説明)

この度の民法改正により、2019年7月1日からは配偶者への自宅の贈与・遺贈が特別受益の持戻しの対象外になりました。

そこで今回は解りにくそうな用語のご説明をします。

まずは『贈与』と『遺贈』です。例えば夫が亡くなった夫婦の場合、贈与とは、夫が『生前に』財産を妻に与えることです。一般的に『生前贈与』と呼ばれているのはそのためです。他方、遺贈とは夫が『死後に』遺言によって財産を妻に与えることです。

次に『特別受益の持戻し』です。遺贈や贈与をすると遺産から外れてしまうと考えがちですが少し違います。たしかに、相続人でない第三者への遺贈や贈与は遺産から外れます。しかし今回のように夫から妻への贈与や遺贈は、相続人への遺産の前渡しによる『特別受益』として扱われます。

特別受益は遺産分割の計算をする際に一旦、相続財産に戻してから計算することになっています。これを『特別受益の持戻し』と言います。

[SK029:相続]配偶者居住権

このたび40年ぶりに民法が改正され、来年の2020年4月より『配偶者居住権』という相続制度が新たに開始されることになりました。

配偶者居住権は、遺産相続した配偶者の財産を保護する制度のひとつです。詳細は後述しますが、これまでの民法では例えば次のようなケースなどで問題が起こっていました。

例)夫が4000万円の家と2000万円の現預金からなる総額6000万円の財産を遺して死亡。夫には妻と子供が二人。妻は夫の家に同居。子供はふたりとも独立しており別居。遺言書は遺さなかった。

まずこのケースでは遺言書がないので民法で規定する法定相続分で遺産を分割します。法定相続分は妻と子供でそれぞれ半分ずつです。妻3000万円、子供3000万円(1500万円×2人)で相続します。

さて、妻は夫の死後もそのままその家に住み続けたいと思っていました。なのにここで子供達が自分達の法定相続分である3000万円を要求してきました。こうなってしまうと現預金は2000万円しかないので足りません。妻(すなわち子供達の母親)は仕方なく家を売って不足している1000万円を子供達に渡すはめになりました。このように相続によっては、妻は夫を亡くした上に住む家までも失くすという悲惨な事が実際に起こっていました。

そこで新設されたのが『配偶者居住権』です。これはまず相続財産の家を『居住権』と『所有権』の二つに分けます。居住権は住む権利、所有権は持つ権利です。そして例えば配偶者には居住権を、子供達には所有権を与えます。

こうすることで妻は家の所有権こそ失いますが、これまでと変わらず家に住み続けることができます。居住権は妻本人が亡くなるまで存続します。

それに家の所有権はあくまで子供達にあります。つまり子供達にとっても自分の母親に家を売らせて困らせたりすることなく自分たちの相続分を満たすことができます。まさにWin Winですね。

なお、総務省の指針によると、居住権の価格は主に配偶者の年齢を考慮した上で決定されます。年齢が高いほど居住期間が短くなるだろうということで居住権は安くなります。

[HM012:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<4/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

96条は詐欺と強迫についての意思表示の取り消しに関する条文です。詐欺については、特に2項の第三者詐欺や3項の第三者保護規定が絡むと混乱しがちになりますが、強迫については特に改正もなく実にシンプルです。

これは条文を丁寧に読むと分かるのですが、1項には『詐欺又は強迫』と書かれているのに、2項と3項はわざわざ『詐欺』としか書かれていません。よって強迫については1項だけが適用されます。

よって強迫については、『強迫された本人は(相手や第三者の善意や悪意に関わらず)とにかく意思表示の取り消しができる』のです。

なお、今回の改正では2項と3項の詐欺についても過去の判例を反映しています。まずはざっくりと『詐欺にあった本人は以前よりもさらに保護されるようになった』と理解しておきましょう。

[HM011:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<3/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

例えば、相手方Aが本人Bに「Bの持っているここの土地は近い将来必ず値崩れする。その前に急いで売ったほうがいい。」と嘘をつきました。そして騙されたBはAと売買契約を結んでその土地をAに売り、Aへの所有権移転登記を終えてしまいました。しめしめと思ったAはその後すぐに第三者Cにその土地を転売し、Cへの所有権移転登記を終えてしまいました。その後、ようやくBはAに騙されていたことに気が付きました。

さてこの場合、BはAとの売買契約を取り消して、Cに渡ってしまった自分の土地を取り戻すことができると思いますか。

答は『Cの状況次第』となります。この場合(BがAに騙されていたという)事情についてCが『過失なく』知らなかった場合には、残念ながらBはAとの売買契約を取り消してCから土地を取り戻すことができません。これが96条3項です。とはいえ今回の改正でCが保護される要件は厳しくなっています。Cは単に知らなかっただけでは保護されず、『過失がなかった』ことも要求されるようになりました。

[HM010:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<2/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

さて、この条文でややこしいのは、登場人物が3人に増えた場合です。例えば、相手方Aがセール品の腕時計を持っていたとします。そして昨日、Aがいないところで第三者Cが本人Bに対し、「実はAの持っているあの腕時計は大変価値のあるものなのだよ」とBを騙していました。その結果、BはAと売買契約をしてそのセール品の腕時計を高値で買ってしまいました。

さてこの場合、BはAに対して売買契約の取り消しができるのでしょうか。

答は『Aの状況次第』となります。つまりAが(BがCに騙されていたという)事情を知っていたり、または知ることができたはずなのに落ち度があって知らなかったのであれば、BはAとの売買契約を取り消すことができます。反対に、Aはそんな事情を知らないし、そのことについて落ち度もないとすれば、BはAとの売買契約を取り消せません。騙されたBの方がAよりも悪いからです。これが96条2項です。

このように今回の改正では、Aが事情を『知っていた』場合はもちろん、単に『知ることができた(けど、過失があって知らなかった)』場合でもBは保護されるということが、明文で規定されました。

[HM009:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<1/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

例えば、相手方Aが本人Bを騙し、どこにでもあるチープな時計をレアものだと言って高値で売りつけたとします。この場合、騙されたことに気が付いたBは、96条1項によりこの売買契約を取り消すことができます。ここまでは実際の肌感覚に近いので理解しやすいと思います。

[HM008:民法大改正]第九五条(錯誤)

民法九五条(錯誤)において、錯誤に基づく意思表示は『無効』から『取り消し』に変更されました。


<改正民法>
1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 

<参考:改正前民法>
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 

『意思表示の錯誤』には2種類あります。ひとつは『表示の錯誤(例:金額の表記ミスに基づく買い物)』。もうひとつは『動機の錯誤(例:レアものと勝手に勘違いした買い物)』があります。なお、動機の錯誤は表意者の心の中だけのことなので、何かしらの表示がないと「すみません、勘違いでした。今のは無しで。」などとは主張ができません。

改正前の民法では、錯誤による意思表示は『無効』(=誰でもいつでも無かったことにできる)と書かれていましたが、改正民法では『取り消し』(=表意者だけが無かったことにできる)に書き換わっています。これはなぜかというと、既に過去の判例で、『錯誤における無効とは、限りなく取り消しに近い』という考えが示されていました。今回の改正ではその考えを踏襲し、分かりやすく整理して条文化されたものだといえます。

[HM007:民法大改正]第九三条(心裡留保)

民法九三条(心裡留保(しんりりゅうほ))において、『表意者の真意』の表現がより実態に即したものになりました。あわせて第三者保護規定も第二項に追加されました。

 

<改正民法>
第九三条①  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
第九三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 

心裡留保とは、いわゆる冗談のことです。例えばAさんが友達のBさんに「ロレックスの高級腕時計を君に10円で譲ってやるよ」などと言ってきた場合のことです。心裡留保は原則として有効(取引成立)です。上記の例では原則的として冗談を言ったAさんが責任をもってBさんに10円でロレックスを譲らなければなりません。

ここで改正民法と改正前民法の条文を見比べてみてください。ちょっとした間違い探しです。どこが改正されたかわかるでしょうか。

答えは、1項但し書きにある、『その意思表示が表意者の真意ではないこと』の部分です。改正前は『表意者の真意』と、さらっと書かれていました。これらは結局は似たことを言っているようにも取れますが厳密には少し違います。

改正前の『表意者の真意』となると、『Aさんがその冗談を言った本当の理由』を指してしまいます。これだと、「いやあ、Aさんが冗談を言っていたのはわかっていたけど、なぜそんなことを言ってくれたんでしょうね。本当の理由まではわからないなあ。」とBさんが言えば、取引が成立する余地が残されてしまうことになりました。

これが改正後の、『その意思表示が表意者の真意ではないこと』であれば、「なんでそんなことを言ってくれたのかはわからない。でも本当の理由はともあれ、ロレックスを譲るのはAさんの真意ではないな。」とBさんがわかるのであればそれだけで無効(取引不成立)となります。

これまでも法律上の解釈では後者の考え方が優勢でした。今回の改正ではその考え方を明文化したものとなります。

[HM006:民法大改正]第九十条(公序良俗)

民法九十条(公序良俗)において記載されていた『目的』という文言が削除されました。

<改正民法>
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

<参考:改正前民法>
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

 

民法90条は民法の大前提ともいえる『公序良俗』に関する条文です。公序良俗違反とは、例えば愛人契約や殺人依頼の契約などがポピュラーです。

過去の判例では、

・愛人契約のような、人倫に反する行為
・殺人依頼のような、正義の観念に反する行為
・悪質商法のような、暴利行為
・芸娼妓(げいしょうぎ)契約のような、個人の自由を極度に制限する行為

などが公序良俗違反にあたるとされています。

さらに公序良俗違反は当事者同士で無効なのはもちろん、善意の第三者も無効を主張できるとしています。例えばAB間の公序良俗違反の売買契約はもちろん無効ですが、転売などで後から関係に入った第三者CもAB間の無効を主張できます。

また過去には、ワイロを受け取って便宜を図った公務員が起訴されたという事例があります。このとき被告は「職務上のルールには則っており正当な行為といえる。公序良俗違反にはあたらない。」と主張したのですが、その訴えは退けられています。その法律行為の結果が贈賄者の利益になる場合には、たとえ直接の目的となる法律行為自体が正当なものであったとしても公序良俗違反にあたると判示されました。

今回の改正であえて『目的』という文言を削除し、こうした「法律行為の直接の『目的』に限定して公序良俗違反の判断をしてはいない」という過去の判例を反映させることになりました。

[HM005:民法大改正]第八十六条(不動産及び動産)

民法第八十六条(不動産及び動産)において、3項にあった「無記名債権」が削除されました。

 

<改正民法>
第八十六条① 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。

<参考:改正前民法>
第八十六条① 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
3 無記名債権は、動産とみなす。

 

「無記名債権」はその名の通り債権者名の書かれていない証券的債権のことです。商品券、チケット、切符などが分かりやすい例です。

改正前民法では無記名債権は「動産」である、となっていました。「債権」と「動産」の大きく異なる点は、債権が特定の人にだけ権利を主張できるのに対し、動産は全ての人に対して権利を主張できる点にあります。

例えば債権の例ですと、A氏がB氏におカネを貸して債権者となった場合、A氏はB氏に対してだけ「おカネを返して。」と言えます。これが動産の場合ですと、例えばC氏がボールペンという動産を持っていた場合、「このボールペンは私の物です。」と誰にでも言えます。

このように債権と動産はまったく性質や概念が異なるものなのですが、改正前民法では「無記名債権は動産として扱う」という特例を設定して実社会への対応をしていました。

今回の民法改正では、債権の総則に有価証券の節を新設して有価証券全体についてのルールを詳細に規定するようになりました。そして「無記名債権」については廃止とし、この有価証券の節に新たに「無記名証券」として規定されるようになりました。