[SK057:相続]遺留分減殺請求制度の見直し

2018年7月に民法が改正されたことにより、2019年7月1日から、遺留分減殺請求制度が見直されました。

改正前の制度では、遺留分減殺請求権の行使によって「共有」状態が当然に生じていたため、これが事業承継の支障になっている、という指摘がありました。

例えば、相続により遺言に基づいて長男への事業承継が発生したとします。ここで他の相続人たちが遺留分減殺請求権を行使したとします。すると長男が承継した会社の土地や建物に、他の相続人たちによる複雑な共有関係が入り込んでしまうこともあったわけです。これでは長男も困りますし、長男へ遺贈した者の意思も尊重されていません。

そこで今回の法改正では、遺留分減殺請求によって生ずる権利は「金銭債権」と定められました。このため、遺留分減殺請求権の行使によって「共有」状態が当然に生ずることを回避できるようになったのです。

先程の遺留分減殺請求の例でいきますと、他の相続人達については、長男が承継した会社の土地や建物に関する共有状態が当然に生ずることにはならなくなりました。その代わり、自分の持ち分を長男に「金銭」で請求することはできる、というわけです。

[SK056:相続]遺産分割に関する民法改正

被相続人が亡くなったあとに相続人が複数いる場合、これら共同相続人全員で遺産分割協議を行って遺産分割を行います。

ここで、被相続人である父親の預金口座のキャッシュカードを管理していた長男がいたとします。そして、父親の預金が他の共同相続人達へ遺産分割されてしまうのを嫌がった彼が、父親の預金を勝手に引き出して、さっさと使い込んでしまったとします。さてこの場合、そのおカネは遺産分割の対象とできるのでしょうか。

これまでの民法では、相続開始後に処分されてしまった財産は遺産分割の対象から「外す」こととされていました。今回のように、相続開始後に長男によって使い込まれてしまったおカネも例外ではありません。そのため他の共同相続人にとって大変不公平な制度でした。

そこで2019年7月1日に民法の相続法が改正されました。その中で「遺産分割前に遺産に該当する財産が処分されてしまったとしても、共同相続人全員の同意があれば、その財産を遺産分割の対象に含むことができる」ことになりました。そして(ここがポイントなのですが)、この共同相続人には財産を処分した当人を含める必要がありません。つまり今回のケースでは、(使い込みをした)長男の同意がなくとも、他の共同相続人たちが全員同意すれば遺産分割が可能になったというわけです。

[SK034:相続]配偶者への自宅の贈与・遺贈が変わります(後妻の相続権)

この度の民法改正により、2019年7月1日からは配偶者への自宅の贈与・遺贈が特別受益の持戻しの対象外になりました。

言い換えると、今回新たに導入された遺産分割の特例措置により、夫を亡くした妻は遺産分割の際に自宅を手放すことなく、安心して遺産相続をすることができるようになった、という事です。

しかしこれでは、夫が後妻を迎えていた場合、別の問題が懸念されます。例えば次の場合はどうでしょう。

ここに夫婦と息子ふたりの4人家族があります。ある日この夫婦が離婚をして妻が出て行きました。そして夫はすぐに若い後妻を迎えました。このあと夫はこの後妻に家を生前贈与し、ほどなくして亡くなくなりました。

さて、ふたりの息子たちからすると心中穏やかではありません。なぜなら今回の法改正による遺産分割の特例措置では、妻が夫から贈与された自宅は遺産分割協議の対象外です。息子たちからすると、急に現れた血の繋がりもない若い後妻に自宅を丸ごと持っていかれてしまうと思ってしまうのも無理ありません。実際、遺産相続で揉めやすいのはこのケースです。

そこで今回の法改正では対策が取られています。今回の遺産分割の特例措置は結婚期間が20年以上であることが条件となっています。

よって上記の事例でも、後妻の結婚期間が20年以上にならない限り特例措置の対象とはならず、自宅も含めて相続人全員で遺産分割を行わなければならない、という事になります。

[SK033:相続]配偶者への自宅の贈与・遺贈が変わります(改正後の計算方法)

この度の民法改正により、2019年7月1日からは配偶者への自宅の贈与・遺贈が特別受益の持戻しの対象外になりました。

例として自宅2,000万円と現金2,000万円、計4,000万円の財産を持つ夫が死亡したとします。夫には同居の妻と別居のふたり息子がいた場合、妻が生前贈与や遺言で自宅を譲り受けていたとすると、妻への遺産分割はどうなるでしょうか。

これまでの法律ですと、自宅だけで法定相続分を全額相続してしまっている妻は現金をいっさい相続できず、当面の生活費に困ってしまうという事が起きていたりしました。

そこで今回の法改正では、妻が夫から生前贈与や遺贈で譲り受けた自宅は遺産分割の対象外となりました。

法改正後の計算では、まず妻は生前贈与や遺贈で受けた2,000万円の自宅をそのままもらえます。さらに遺産分割の対象である現金2,000万円のうちの二分の一、すなわち現金1,000万円も妻は相続できます。よって妻は計3,000万円を相続します。そして息子は残りの現金1,000万円をふたりで500万円ずつ遺産分割します。

このように新しい法律では、相続によって配偶者が自宅を手放さなければならなくならないよう、配偶者を手厚く保護するようになりました。

[SK032:相続]配偶者への自宅の贈与・遺贈が変わります(改正前の計算方法)

この度の民法改正により、2019年7月1日からは配偶者への自宅の贈与・遺贈が特別受益の持戻しの対象外になりました。

これは、亡くなった夫(妻)と同居していた配偶者にとって、自宅というものは特別な意味を持っており、他の相続財産よりもより守られるべきである、との観点から法改正がなされたものです。

例として自宅2,000万円と現金2,000万円、計4,000万円の財産を持つ夫が死亡したとします。夫には同居の妻と別居のふたり息子がいた場合、妻が生前贈与や遺言で自宅を譲り受けていたとすると、妻への遺産分割はどうなるでしょうか。

まずは法定相続分の計算です。妻と息子、それぞれが二分の一(2,000万円)ずつです。息子は二人いるので息子一人あたりは四分の一(1,000万円)です。

ここで従来の法律ですと、妻に生前贈与や遺贈で譲った自宅も遺産分割の対象に含んで相続計算をします。このような自宅は共同相続人への遺産の前渡しと考えるためです。

すると妻は法定相続分2,000万円をすでに自宅という形で全額相続していることになります。これでは残った現金2,000万円はすべて息子二人に相続されてしまい、妻に現金が全く渡らなくなってしまいます。夫を失った妻は当面の生活費もなくなり困ってしまうでしょう。自宅を売却しておカネを工面しなくてはならなくなるかもしれません。

このように、これまでの法律では、夫の財産を相続することによって妻がかえって自宅を手放さなくてはならなくなる、ということも起こりえていたわけです。

[SK031:相続]配偶者への自宅の贈与・遺贈が変わります(用語の説明)

この度の民法改正により、2019年7月1日からは配偶者への自宅の贈与・遺贈が特別受益の持戻しの対象外になりました。

そこで今回は解りにくそうな用語のご説明をします。

まずは『贈与』と『遺贈』です。例えば夫が亡くなった夫婦の場合、贈与とは、夫が『生前に』財産を妻に与えることです。一般的に『生前贈与』と呼ばれているのはそのためです。他方、遺贈とは夫が『死後に』遺言によって財産を妻に与えることです。

次に『特別受益の持戻し』です。遺贈や贈与をすると遺産から外れてしまうと考えがちですが少し違います。たしかに、相続人でない第三者への遺贈や贈与は遺産から外れます。しかし今回のように夫から妻への贈与や遺贈は、相続人への遺産の前渡しによる『特別受益』として扱われます。

特別受益は遺産分割の計算をする際に一旦、相続財産に戻してから計算することになっています。これを『特別受益の持戻し』と言います。

[SK029:相続]配偶者居住権

このたび40年ぶりに民法が改正され、来年の2020年4月より『配偶者居住権』という相続制度が新たに開始されることになりました。

配偶者居住権は、遺産相続した配偶者の財産を保護する制度のひとつです。詳細は後述しますが、これまでの民法では例えば次のようなケースなどで問題が起こっていました。

例)夫が4000万円の家と2000万円の現預金からなる総額6000万円の財産を遺して死亡。夫には妻と子供が二人。妻は夫の家に同居。子供はふたりとも独立しており別居。遺言書は遺さなかった。

まずこのケースでは遺言書がないので民法で規定する法定相続分で遺産を分割します。法定相続分は妻と子供でそれぞれ半分ずつです。妻3000万円、子供3000万円(1500万円×2人)で相続します。

さて、妻は夫の死後もそのままその家に住み続けたいと思っていました。なのにここで子供達が自分達の法定相続分である3000万円を要求してきました。こうなってしまうと現預金は2000万円しかないので足りません。妻(すなわち子供達の母親)は仕方なく家を売って不足している1000万円を子供達に渡すはめになりました。このように相続によっては、妻は夫を亡くした上に住む家までも失くすという悲惨な事が実際に起こっていました。

そこで新設されたのが『配偶者居住権』です。これはまず相続財産の家を『居住権』と『所有権』の二つに分けます。居住権は住む権利、所有権は持つ権利です。そして例えば配偶者には居住権を、子供達には所有権を与えます。

こうすることで妻は家の所有権こそ失いますが、これまでと変わらず家に住み続けることができます。居住権は妻本人が亡くなるまで存続します。

それに家の所有権はあくまで子供達にあります。つまり子供達にとっても自分の母親に家を売らせて困らせたりすることなく自分たちの相続分を満たすことができます。まさにWin Winですね。

なお、総務省の指針によると、居住権の価格は主に配偶者の年齢を考慮した上で決定されます。年齢が高いほど居住期間が短くなるだろうということで居住権は安くなります。

[HM012:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<4/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

96条は詐欺と強迫についての意思表示の取り消しに関する条文です。詐欺については、特に2項の第三者詐欺や3項の第三者保護規定が絡むと混乱しがちになりますが、強迫については特に改正もなく実にシンプルです。

これは条文を丁寧に読むと分かるのですが、1項には『詐欺又は強迫』と書かれているのに、2項と3項はわざわざ『詐欺』としか書かれていません。よって強迫については1項だけが適用されます。

よって強迫については、『強迫された本人は(相手や第三者の善意や悪意に関わらず)とにかく意思表示の取り消しができる』のです。

なお、今回の改正では2項と3項の詐欺についても過去の判例を反映しています。まずはざっくりと『詐欺にあった本人は以前よりもさらに保護されるようになった』と理解しておきましょう。

[HM011:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<3/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

例えば、相手方Aが本人Bに「Bの持っているここの土地は近い将来必ず値崩れする。その前に急いで売ったほうがいい。」と嘘をつきました。そして騙されたBはAと売買契約を結んでその土地をAに売り、Aへの所有権移転登記を終えてしまいました。しめしめと思ったAはその後すぐに第三者Cにその土地を転売し、Cへの所有権移転登記を終えてしまいました。その後、ようやくBはAに騙されていたことに気が付きました。

さてこの場合、BはAとの売買契約を取り消して、Cに渡ってしまった自分の土地を取り戻すことができると思いますか。

答は『Cの状況次第』となります。この場合(BがAに騙されていたという)事情についてCが『過失なく』知らなかった場合には、残念ながらBはAとの売買契約を取り消してCから土地を取り戻すことができません。これが96条3項です。とはいえ今回の改正でCが保護される要件は厳しくなっています。Cは単に知らなかっただけでは保護されず、『過失がなかった』ことも要求されるようになりました。

[HM010:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<2/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

さて、この条文でややこしいのは、登場人物が3人に増えた場合です。例えば、相手方Aがセール品の腕時計を持っていたとします。そして昨日、Aがいないところで第三者Cが本人Bに対し、「実はAの持っているあの腕時計は大変価値のあるものなのだよ」とBを騙していました。その結果、BはAと売買契約をしてそのセール品の腕時計を高値で買ってしまいました。

さてこの場合、BはAに対して売買契約の取り消しができるのでしょうか。

答は『Aの状況次第』となります。つまりAが(BがCに騙されていたという)事情を知っていたり、または知ることができたはずなのに落ち度があって知らなかったのであれば、BはAとの売買契約を取り消すことができます。反対に、Aはそんな事情を知らないし、そのことについて落ち度もないとすれば、BはAとの売買契約を取り消せません。騙されたBの方がAよりも悪いからです。これが96条2項です。

このように今回の改正では、Aが事情を『知っていた』場合はもちろん、単に『知ることができた(けど、過失があって知らなかった)』場合でもBは保護されるということが、明文で規定されました。