[HM017:民法大改正]第九八条の二(意思表示の受領能力)<2/3>

民法第98条の2は『意思表示の受領能力』に関する条文です。改正後は『意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき』が追加されました。

<改正後:第98条の2>
(意思表示の受領能力)
 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を
有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であっ
たときは、その意思表示をもってその相手方に対抗すること
ができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った
後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
<参考><改正前:第98条の2>
(意思表示の受領能力)
 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者
又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもって
その相手方に対抗することができない。ただし、その法定
代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。

例えばコンビニの店長Aさんが未成年者の学生B君を直接契約でアルバイトとして雇ってしまった場合の事を考えてみます。未成年者を相手方とした意思表示の場合、この意思表示をもって未成年者に対抗することはできません。そのため数日後AさんがいきなりB君から「やっぱり性に合わないので辞めます」と言われてしまっても、原則としてAさんは引き止める(対抗する)ことはできません。逆にB君がAさんから不当に解雇されそうになった場合には、B君は取り交わした契約内容を盾にAさんに対抗することができます。

このように意思表示の相手方が未成年者や成年被後見人の場合ですと意思表示をした側が一方的にリスクを負うことが往々にしてあるため、未成年者や成年被後見人の代りに親権者や後見人などの法定代理人を相手方として契約を結ぶことが一般的です。

[HM016:民法大改正]第九八条の二(意思表示の受領能力)<1/3>

民法第98条の2は『意思表示の受領能力』に関する条文です。改正後は『意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき』が追加されました。

<改正後:第98条の2>
(意思表示の受領能力)
 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を
有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であっ
たときは、その意思表示をもってその相手方に対抗すること
ができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った
後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
<参考><改正前:第98条の2>
(意思表示の受領能力)
 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者
又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもって
その相手方に対抗することができない。ただし、その法定
代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。

『意思表示の相手方』とは、意思表示を(する側でなく)受け手を指します。この意思表示の相手方が未成年者や成年被後見人の場合、その人に対し「きちんと説明した」とか「お互い合意したはずだ」とか「契約書だってある」などといくら主張したとしても、相手方の側から「そんなこと知りません」と否定されたら、それを拒否する(対抗する)ことはできません。

[HM015:民法大改正]第九七条(意思表示の効力発生時期等)<3/3>

民法では意思表示の効力発生時期について『到達主義』を採用しています。今回の法改正では『隔地者』に限定していた97条の条文からその制限を撤廃するなど、実態に合わせた条文変更がありました。

<改正後:民法第97条>
1. 意思表示は、その通知が相手方に到達した時から
その効力を生ずる。
2 .相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達す
ることを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきで
あった時に到達したものとみなす。
3 .意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、
意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときで
あっても、そのためにその効力を妨げられない。
<改正前:民法第97条>
1. 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に
到達した時からその効力を生ずる。
2. 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発し
た後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであって
も、そのためにその効力を妨げられない。

3項では、本人の意思表示は、それが相手方に到達する前に本人の『死亡』『意思能力の喪失』『行為能力の制限』のいずれかがあったとしても、効力は失われないとしています。

新条文では旧条文では明記されていなかった『意思能力の喪失』が追加され、『行為能力の喪失』が『行為能力の制限』という表現となりました。これにより、適用範囲が広がり、より判例に近い条文になりました。

[HM014:民法大改正]第九七条(意思表示の効力発生時期等)<2/3>

民法では意思表示の効力発生時期について『到達主義』を採用しています。今回の法改正では『隔地者』に限定していた97条の条文からその制限を撤廃するなど、実態に合わせた条文変更がありました。

<改正後:民法第97条>
1. 意思表示は、その通知が相手方に到達した時から
その効力を生ずる。
2 .相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達す
ることを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきで
あった時に到達したものとみなす。
3 .意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、
意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときで
あっても、そのためにその効力を妨げられない。
<改正前:民法第97条>
1. 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に
到達した時からその効力を生ずる。
2. 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発し
た後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであって
も、そのためにその効力を妨げられない。

2項では相手方に受領拒絶をされた場合の判例を反映した条文です。

手紙を例にした場合、『到達』とは、相手方が実際に手紙を受け取ったり封を開けて読んだとき、という意味ではありません。相手方の勢力範囲(郵便受けなど)に手紙が届きさえすれば、到達したものと認められます。

ですので、そこを逆手にとり、郵便受けを故意にふさいで受領拒否をし、借金の督促状などの『到達』を防ぐことも考えられます。

2項ではそのような妨害工作による受領拒否をしても到達の効力を認めるものとしています。

[HM013:民法大改正]第九七条(意思表示の効力発生時期等)<1/3>

民法では意思表示の効力発生時期について『到達主義』を採用しています。今回の法改正では『隔地者』に限定していた97条の条文からその制限を撤廃するなど、実態に合わせた条文変更がありました。

<改正後:民法第97条>
1. 意思表示は、その通知が相手方に到達した時から
その効力を生ずる。
2 .相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達す
ることを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきで
あった時に到達したものとみなす。
3 .意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、
意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときで
あっても、そのためにその効力を妨げられない。
<改正前:民法第97条>
1. 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に
到達した時からその効力を生ずる。
2. 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発し
た後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであって
も、そのためにその効力を妨げられない。

「日本酒を注文します」、「布団をクーリングオフします」など相手方への意思表示は、相手方に到達した時点で効力が発生します。これを『到達主義』といいます。おもに手紙など日数を要する意思表示の際に必要となる概念です。

そのため旧民法の97条では隔地者間の意思表示に限定して明文化していましたが、あえて隔地者間に限る必要性もないことから、『隔地者』という文言を取り払いました。

[SK039:相続]慰謝料請求権の相続

慰謝料請求権とは、精神的苦痛に対する損害賠償請求権の事です。さて、この慰謝料請求権ははたして相続の対象となるのでしょうか。

結論からお話ししますと、慰謝料請求権は相続の対象となります。判例では被相続人が不法行為により精神的苦痛を受けた被害者であり、この人が存命中にもし機会を与えられていれば慰謝料請求をしていたであろうという事が認められるのであれば、慰謝料請求権は相続人へ相続されるとしています。

なお、慰謝料請求権には上記の『相続肯定説』と対立する『相続否定説』という有力な説もあります。相続否定説では慰謝料請求権を被相続人の一身専属的なものととらえます。この考え方では、被害者(被相続人)が生前に慰謝料請求権を実際に行使していない限り、慰謝料請求権の相続は認められません。

[SK037:相続]一身専属権とは

一身に専属する権利(一身専属権)とは、その人個人の持つ権利義務のうち、その性質上、他の者に移転することのないものを指します。一身専属権は相続や譲渡ができません。

一身専属権のわかりやすい例としては自動車の運転免許が挙げられます。あたりまえのことですが、たとえ夫の全財産を相続した妻であっても、夫の運転免許証でクルマの運転ができるようになるわけではありません。

主に相続で問題となる一身専属権には、以下のものがあります。

■一身専属した権利義務の例

・生活保護の受給権
・委任関係における地位(委任者又は受任者としての地位)
・代理関係における地位(本人又は代理人としての地位)
・組合員、合名会社の社員、合資会社の無限責任社員の地位
・身元保証債務
・信用保証債務

[SK031:相続]配偶者への自宅の贈与・遺贈が変わります(用語の説明)

この度の民法改正により、2019年7月1日からは配偶者への自宅の贈与・遺贈が特別受益の持戻しの対象外になりました。

そこで今回は解りにくそうな用語のご説明をします。

まずは『贈与』と『遺贈』です。例えば夫が亡くなった夫婦の場合、贈与とは、夫が『生前に』財産を妻に与えることです。一般的に『生前贈与』と呼ばれているのはそのためです。他方、遺贈とは夫が『死後に』遺言によって財産を妻に与えることです。

次に『特別受益の持戻し』です。遺贈や贈与をすると遺産から外れてしまうと考えがちですが少し違います。たしかに、相続人でない第三者への遺贈や贈与は遺産から外れます。しかし今回のように夫から妻への贈与や遺贈は、相続人への遺産の前渡しによる『特別受益』として扱われます。

特別受益は遺産分割の計算をする際に一旦、相続財産に戻してから計算することになっています。これを『特別受益の持戻し』と言います。

[HM012:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<4/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

96条は詐欺と強迫についての意思表示の取り消しに関する条文です。詐欺については、特に2項の第三者詐欺や3項の第三者保護規定が絡むと混乱しがちになりますが、強迫については特に改正もなく実にシンプルです。

これは条文を丁寧に読むと分かるのですが、1項には『詐欺又は強迫』と書かれているのに、2項と3項はわざわざ『詐欺』としか書かれていません。よって強迫については1項だけが適用されます。

よって強迫については、『強迫された本人は(相手や第三者の善意や悪意に関わらず)とにかく意思表示の取り消しができる』のです。

なお、今回の改正では2項と3項の詐欺についても過去の判例を反映しています。まずはざっくりと『詐欺にあった本人は以前よりもさらに保護されるようになった』と理解しておきましょう。

[HM011:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<3/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

例えば、相手方Aが本人Bに「Bの持っているここの土地は近い将来必ず値崩れする。その前に急いで売ったほうがいい。」と嘘をつきました。そして騙されたBはAと売買契約を結んでその土地をAに売り、Aへの所有権移転登記を終えてしまいました。しめしめと思ったAはその後すぐに第三者Cにその土地を転売し、Cへの所有権移転登記を終えてしまいました。その後、ようやくBはAに騙されていたことに気が付きました。

さてこの場合、BはAとの売買契約を取り消して、Cに渡ってしまった自分の土地を取り戻すことができると思いますか。

答は『Cの状況次第』となります。この場合(BがAに騙されていたという)事情についてCが『過失なく』知らなかった場合には、残念ながらBはAとの売買契約を取り消してCから土地を取り戻すことができません。これが96条3項です。とはいえ今回の改正でCが保護される要件は厳しくなっています。Cは単に知らなかっただけでは保護されず、『過失がなかった』ことも要求されるようになりました。