[HM010:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<2/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

さて、この条文でややこしいのは、登場人物が3人に増えた場合です。例えば、相手方Aがセール品の腕時計を持っていたとします。そして昨日、Aがいないところで第三者Cが本人Bに対し、「実はAの持っているあの腕時計は大変価値のあるものなのだよ」とBを騙していました。その結果、BはAと売買契約をしてそのセール品の腕時計を高値で買ってしまいました。

さてこの場合、BはAに対して売買契約の取り消しができるのでしょうか。

答は『Aの状況次第』となります。つまりAが(BがCに騙されていたという)事情を知っていたり、または知ることができたはずなのに落ち度があって知らなかったのであれば、BはAとの売買契約を取り消すことができます。反対に、Aはそんな事情を知らないし、そのことについて落ち度もないとすれば、BはAとの売買契約を取り消せません。騙されたBの方がAよりも悪いからです。これが96条2項です。

このように今回の改正では、Aが事情を『知っていた』場合はもちろん、単に『知ることができた(けど、過失があって知らなかった)』場合でもBは保護されるということが、明文で規定されました。

[HM009:民法大改正]第九六条(詐欺又は強迫)<1/4>

民法第九六条(詐欺又は強迫)において、2項の第三者詐欺の成立要件と、3項の詐欺取消時の第三者保護要件が、それぞれ判例に沿った内容に修正されました。

<改正民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

例えば、相手方Aが本人Bを騙し、どこにでもあるチープな時計をレアものだと言って高値で売りつけたとします。この場合、騙されたことに気が付いたBは、96条1項によりこの売買契約を取り消すことができます。ここまでは実際の肌感覚に近いので理解しやすいと思います。

[HM008:民法大改正]第九五条(錯誤)

民法九五条(錯誤)において、錯誤に基づく意思表示は『無効』から『取り消し』に変更されました。


<改正民法>
1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 

<参考:改正前民法>
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 

『意思表示の錯誤』には2種類あります。ひとつは『表示の錯誤(例:金額の表記ミスに基づく買い物)』。もうひとつは『動機の錯誤(例:レアものと勝手に勘違いした買い物)』があります。なお、動機の錯誤は表意者の心の中だけのことなので、何かしらの表示がないと「すみません、勘違いでした。今のは無しで。」などとは主張ができません。

改正前の民法では、錯誤による意思表示は『無効』(=誰でもいつでも無かったことにできる)と書かれていましたが、改正民法では『取り消し』(=表意者だけが無かったことにできる)に書き換わっています。これはなぜかというと、既に過去の判例で、『錯誤における無効とは、限りなく取り消しに近い』という考えが示されていました。今回の改正ではその考えを踏襲し、分かりやすく整理して条文化されたものだといえます。

[HM007:民法大改正]第九三条(心裡留保)

民法九三条(心裡留保(しんりりゅうほ))において、『表意者の真意』の表現がより実態に即したものになりました。あわせて第三者保護規定も第二項に追加されました。

 

<改正民法>
第九三条①  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

<参考:改正前民法>
第九三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 

心裡留保とは、いわゆる冗談のことです。例えばAさんが友達のBさんに「ロレックスの高級腕時計を君に10円で譲ってやるよ」などと言ってきた場合のことです。心裡留保は原則として有効(取引成立)です。上記の例では原則的として冗談を言ったAさんが責任をもってBさんに10円でロレックスを譲らなければなりません。

ここで改正民法と改正前民法の条文を見比べてみてください。ちょっとした間違い探しです。どこが改正されたかわかるでしょうか。

答えは、1項但し書きにある、『その意思表示が表意者の真意ではないこと』の部分です。改正前は『表意者の真意』と、さらっと書かれていました。これらは結局は似たことを言っているようにも取れますが厳密には少し違います。

改正前の『表意者の真意』となると、『Aさんがその冗談を言った本当の理由』を指してしまいます。これだと、「いやあ、Aさんが冗談を言っていたのはわかっていたけど、なぜそんなことを言ってくれたんでしょうね。本当の理由まではわからないなあ。」とBさんが言えば、取引が成立する余地が残されてしまうことになりました。

これが改正後の、『その意思表示が表意者の真意ではないこと』であれば、「なんでそんなことを言ってくれたのかはわからない。でも本当の理由はともあれ、ロレックスを譲るのはAさんの真意ではないな。」とBさんがわかるのであればそれだけで無効(取引不成立)となります。

これまでも法律上の解釈では後者の考え方が優勢でした。今回の改正ではその考え方を明文化したものとなります。

[HM006:民法大改正]第九十条(公序良俗)

民法九十条(公序良俗)において記載されていた『目的』という文言が削除されました。

<改正民法>
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

<参考:改正前民法>
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

 

民法90条は民法の大前提ともいえる『公序良俗』に関する条文です。公序良俗違反とは、例えば愛人契約や殺人依頼の契約などがポピュラーです。

過去の判例では、

・愛人契約のような、人倫に反する行為
・殺人依頼のような、正義の観念に反する行為
・悪質商法のような、暴利行為
・芸娼妓(げいしょうぎ)契約のような、個人の自由を極度に制限する行為

などが公序良俗違反にあたるとされています。

さらに公序良俗違反は当事者同士で無効なのはもちろん、善意の第三者も無効を主張できるとしています。例えばAB間の公序良俗違反の売買契約はもちろん無効ですが、転売などで後から関係に入った第三者CもAB間の無効を主張できます。

また過去には、ワイロを受け取って便宜を図った公務員が起訴されたという事例があります。このとき被告は「職務上のルールには則っており正当な行為といえる。公序良俗違反にはあたらない。」と主張したのですが、その訴えは退けられています。その法律行為の結果が贈賄者の利益になる場合には、たとえ直接の目的となる法律行為自体が正当なものであったとしても公序良俗違反にあたると判示されました。

今回の改正であえて『目的』という文言を削除し、こうした「法律行為の直接の『目的』に限定して公序良俗違反の判断をしてはいない」という過去の判例を反映させることになりました。

[GH003:行政書士業務]債権譲渡の事例

事例から見ていきましょう。

Aが居酒屋で見知らぬ男Cから暴行を受けて全治一か月の大けがをしてしまいました。そこでAはCに対し治療費を請求しました。しかしCはその請求を無視し謝罪にも見舞いにも訪れません。AはCを裁判で訴えようとも考えましたが、訴訟をするには体力的にも財力的にも厳しいので泣き寝入りするしかありません。Aの父親であるBがAのお見舞いに来た時にその話を聞き大変怒りました。そしてBは息子のAに対し「お前に代わってワシがCを訴えてやる!」と言いました。

さて、ここで問題です。このような場合に直接の被害者ではないBがAに代わってCを相手に訴訟を起こすことはできるのでしょうか。

 

答は「できる」です。

理由はいろいろありますが、民法466条で規定されている「債権譲渡」を根拠とする説があります。債権譲渡とは文字通り、債権を別の人に譲り渡すことができるというものです。おカネに限らず原則としてどのような債権でも債務者の了承なく譲渡の対象にできます(ただし、漫画家に漫画を描かせるようなその人でなければ意味のない債権や、譲渡禁止特約のある債権などは譲渡できません)。

さて、Cから暴行を受けたAは、Cに対して訴える権利(民事訴訟法における請求権)があると言えます。この権利はれっきとしたAのCに対する債権です。そして債権である以上、AがCに対して訴訟を起こす権利も債権譲渡の対象とすることができます。

よって「お前に代わってワシがCを訴えてやる!」と言ってくれた父親Aに対して息子Aが「僕の代りにCを訴えて」とお願いすることも法律上可能という事になります。

[SG004:行政書士試験]詐害行為取消権

今回は民法424条の『詐害行為取消権』についてのお話です。

詐害行為取消権とは、おカネを借りた人(=債務者)が返済の資力があるにも関わらずおカネを返さない、それどころか「どうせおカネを返すくらいなら息子にでも財産を譲って資産を無くしてしまえ」などという詐害意思をもって資産を減少させた場合に、おカネを貸した人(=債権者)が異議を唱え、その行為を取り消して債務者の資産の減少を防ぐことができる権利のことです。

ただし、なんでもかんでも取り消しできるわけでありません。例えば「財産が減るから認めない」という理由を無理やりつけて、債務者の結婚を債権者が取り消しできるとしたら大変です。ですから、詐害行為取消権の対象となる行為は「財産権を目的とする法律行為」に限定されています。もちろん結婚という身分行為には及びません。そして例え財産権を目的とする法律行為であっても、返済資力の確保に支障のない行為であれば、これも詐害行為取消権の対象外です。

さて、ここで問題です。「遺産分割協議」は詐害行為取消権の対象となるでしょうか。例えば自分が借金したあとに親が他界して、親の財産を相続することになったときに「遺産が入ってきてもどうせ借金の返済でみんな持っていかれるから」と考えて、遺産分割協議でわざと自分への相続分をゼロにしてしまえば債権者から逃げ切れるか、という問題です。

答.詐害行為取消権の対象になる
判例は「遺産分割協議もその性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができる」としています。

[SK019:相続]相続欠格と廃除

相続人の意思で行う相続には、通常の相続である「単純承認」、相続財産を放棄する「相続放棄」、相続する財産を限定して承認する「限定承認」の3種類があります。

逆に相続人の意思が絡まない相続としては、ある事由が発生しただけで相続人が相続権を失う「相続欠格」、被相続人の意思によって相続人の相続権を奪ってしまう「相続人の廃除」の2種類があります。

遺言書を偽造・変造したり、詐欺や強迫によって遺言書を書かせたり、遺産目当てで殺人を犯したりした相続人は「相続欠格」に該当し、当然に相続権を失います。この場合、相続はもちろん、遺贈を受けることもできなくなります。

また、(欠格事由には当てはまらないものの)被相続人が相続人から虐待、侮辱、著しい非行を受けた場合、被相続人はその相続人に自分の財産を一切渡さないようにする「相続人の廃除」を行うことができます。この廃除が成立すれば遺留分ですら渡す必要がなくなります。

ただ実際にこの相続人の廃除という制度を用いるのは結構ハードルが高く、相当ひどい目にあっていたのに家庭裁判所では認めてもらえなかったということもあるようです。また、廃除が確定したとしてもいつでも取り下げが可能です。相続人の廃除はできる限り行うべきではない、という考えが根底にあるのでしょう。

なお、「廃除」という文字を「排除」と書き間違える方がいらっしゃいます。行政書士試験の記述式問題では特に注意するようにしましょう。

[SG003:行政書士試験]譲渡担保の特徴

「担保物権」とは、貸したおカネを返済してもらえなかった時に、担保になっている物を債権者が処分しておカネに換えてしまえる権利の事です。民法の担保物権には「法定担保物権」と「約定担保物権」があります。

法定担保物権とは法律に規定されている条件が整うと当然に発生する担保物権です。民法では「留置権」「先取特権」が規定されています。

約定担保物権とは当事者間の意思表示により発生する担保物権です。民法では「質権」「抵当権」が規定されています。

しかし、これら民法に規定されている担保物権だけでは実社会では対応しきれませんでした。そこで実社会の取引の中で自然と生まれ判例により認められた担保物権も現れるようになりました。このような物権を「非典型担保」と言います。

そんな非典型担保のひとつに「譲渡担保」があります。譲渡担保とは、おカネを貸した際に担保になっている物の使用収益権を債務者に残したままとする担保物権の事です。

例えば、自社の工場にある工作機械を担保にして銀行から運転資金を借りてくる場合などに利用されます。譲渡担保は質権と違い、担保になっている工作機械をそのまま工場に置いたまま業務にも使用できます(占有改定といいます)。そして万一、資金繰りが悪化したら、銀行は担保になっている工作機械を売却して回収することができるのです。

譲渡担保は「抵当権の動産(=不動産以外の物)版」と言えるかもしれませんね。

[SG002:行政書士試験]代物弁済

事例問題です。

BさんはAさんへ2万円を貸しました。それからふた月ほど経ちましたがBさんはAさんからおカネを返してもらっていません。心配になったBさんがAさんの家に行き「早くおカネを返してほしい。」と訴えると、Aさんは箱から腕時計を取り出して「代わりにこの腕時計をあげる。これで借金を帳消しにして。」と言いました。カッコいい腕時計だったのでBさんは了承して腕時計を持ち帰りました。

その2日後、BさんはAさんから連絡を受けました。Aさんは「昨日、ネットオークションをしていて気付いたんだけど、先日君に渡した腕時計には結構なプレミアが付いていて、今だと6万円で取引されている。だから実際の時計の価値6万円と借金2万円との差額である4万円を支払って欲しい。」

さて、Bさんはこの4万円をAさんに支払わねばならないのでしょうか。

 

答え:支払う必要はない

一般的に、借りたおカネをおカネ以外のもので弁済することを「代物弁済」といいます。代物弁済では両者の合意さえあればおカネの代わりに提供するモノ自体の価値は問われません。代物弁済をすると債務は消滅します。

今回のケースでは、たとえ後から知った腕時計の価値が6万円に跳ね上がっていようが、3円に暴落していようが、代物弁済により既に債務は消滅していることになります。よって腕時計の現在の価値と借金との間にいくら差額があったとしても、それをBさんがAさんに支払う必要はありません。